休日の訪問者




ピンポーン

訪問客を告げる玄関のベルが鳴っている。
2階でバイクの雑誌を読んでいた鴉取真弘はなんともなしにその音を聞いていた。

ピンポーン

再びベルの音が家に響く。
ここに来てようやく今は自分以外の誰も家にいないことを思い出した。
正直言って降りていくのが面倒くさい。
しばらく悩んだ挙句真弘は結局無視を決め込むことにした。
訪問客の方も誰もいないと思ったのかベルを鳴らさない。
ひょっとしたら諦めてもう帰ったのかと思った矢先、

ピンポン ピンポーン

「だー!もー、誰だよ。ったく」

真弘は読んでいた雑誌をベッドに放り投げ、わざと大きな音を立てながら階段を駆け下りる。

「はいはい、どなたですか? 勧誘ならお断りって・・・ん?」

投げやりな態度で玄関を開けると、そこにいたのは意外な人物。

「先輩、助けてください」

「珠紀?」

そこにいたのは玉衣姫こと春日珠紀であった。
真弘の一年後輩で、恋人だったりする。
その珠紀が一体何故ここに?
そんな疑問が真弘の頭を過ぎる。
その前に助けてとか言わなかったか?

「おい、助けてってどういうことだよ。またロゴスか?それとも琢磨に苛められたか?」

「どっちも違います。でも、もう真弘先輩にしかお願いできる人いないんです」

珠紀は真剣な顔をして真弘を見つめる。
好きな女の子にここまで頼まれて、男としては悪い気はしない。

「じゃあ何だよ?」

ニヤつく口を必死に押さえながら真弘は問うた。
そして帰ってきた返答は、真弘の予想を遙かに超えたものだった。

「台所貸してください」

「はぁ?」

さすがに訳が分からなくて、真弘は怪訝そうに声をあげた。

「だって、美鶴ちゃん、『玉衣姫様にお料理をさせるわけにはいきません』って
全然料理させてくれないんだもん」

珠紀は残念そうに溜息をついた。
美鶴にとって台所とは自分の聖地のようなものだ。
そこを珠紀に邪魔をされたくないのだろう。
真弘は何となくだが状況は理解した。

「私いい加減限界なんです。だって3ヶ月近くも料理してないんですよ。3ヶ月も!
鬼切丸の時は忙しくてそれどころじゃなかったけど、平和になったんだし、私も料理したいんです。
それに、真弘先輩だって私の手料理食べたいとか言ってたじゃないですか」

確かにそんなことを言った記憶はある。
でもあれは逃げる珠紀を安心させるために言ったわけで、
まさか本当にそうなる日が来るとは思っても見なかった。

「材料も買ってきたんです。だから台所貸してください」

よく見れば両手に大量の買い物袋が下がっていた。
どうやら本気のようだ。
ついでに相当の量を作る気らしい。

「ダメ・・・ですか?」

珠紀はできる限りの上目遣いで真弘を見つめた。
そんな目で見つめられたら、否とはいえない。男として!

「わかったよ。好きに使え」

珠紀の料理を食べてみたいというのは本当だ。
作ってくれるならそれでいいではないか。
どうせ、両親の帰りは遅いだろうし、一人の食事より二人の方が言いに決まっている。
そう考えて真弘は珠紀を家に通した。

「ありがとうございます」

珠紀は真弘の了解を得て、ぱっと顔を輝かして礼を言った。
その表情を見て真弘の心臓が跳ねる。

(ちょっと待てよ)

真弘の頭の中にある考えが浮かぶ。
両親の帰りは遅い。
そして現在状況は珠紀と真弘が二人きりで家にいる。

(これって今までにない、いい状況なんじゃねぇの)

学校に行けば琢磨や裕一、慎司と他の守護者が珠紀を放さない。
かといって珠紀の家に行けば美鶴という姑がいて、自分の家では両親がいるわけで。
鬼切丸を巡るロゴスの戦いが終わって平和になってからも、
自分と珠紀の間でそんな雰囲気になる機会など数少なかった。

「先輩、何ニヤニヤしてるんですか?」

「してねーよ」

真弘は慌てて表情を硬くした。

「いーえ、してました。すっごくスケベそうな顔」

「なっ。ス、スケベってお前なぁ。俺がいつそんな顔したよ」

「ムキになるところが怪しすぎです」

全く、生意気に育ったものだ。
とは思うもののそんなところも可愛いと思ってしまうのだからどうしようもない。

「ほら、さっさと入れよ」

真弘は珠紀から買い物袋を奪い取ると、すぐに家の奥へ消えてしまった。

「あ、待ってよ」

お邪魔しますと一言声を掛けて珠紀は真弘の家に上がりこんだ。





トントントン

軽快な包丁の音が室内に響く。
包丁を握る珠紀の横ではグツグツと鍋が音を立てている。
エプロンをつけ、長い髪を一つにまとめて料理を進める珠紀の姿を真弘は後ろの方でずっと見ていた。
料理をする珠紀は本当に楽しそうで、何故だろうか見ているこちらまで楽しい気分になっていた。
時間が経つに連れてあたりにおいしそうな匂いが漂い始める。
ふと、珠紀が振り返る。
視線が合って、真弘の鼓動はまた一つ跳ねた。

「あの・・・」

「んだよ。邪魔はしてないぞ」

「そうですけど、そこでじっと見られてるのも気になるっていうか」

じっと自分を見ているのが分かるのだ。
その視線を痛いほど感じるのだ。
特にうなじの部分。

「ここにいなくても大丈夫ですよ。心配しなくても爆発とかしませんから」

「お、れ、は!ここにいたいからここにいるんだ。
お前と少しでも一緒にいたいって言うのがわからねぇのかよ」

「え・・・」

珠紀は顔を赤くした。
真弘も自分の発言に気付いて顔を赤くする。

「とにかくだな。俺はここいる。いいな」

「わかりましたよ」

珠紀もしぶしぶながら頷いた。
だが、顔にはそう言われて嬉しいと言う態度が現れている。

「あ、先輩。ちょっと卵貰ってもいいですか?買い忘れちゃったみたいなんで」

「ああ、冷蔵庫にあるから」

そう言われて、珠紀は冷蔵庫へと向かう。
ドアを開けると、そこには、

(うわぁ、牛乳がいっぱい)

1、2、3・・・

(うーん。これ何日で飲むんだろ。じゃなくて、よっぽどコンプレックスなんだな、背)

自分としては全く背など気にしていないのだが、やっぱり本人は相当気にしているのだろう。
そこまで願っているなら今度はカルシウムの多い料理にしてあげよう。
珠紀はそう心に誓った。

「見つかったか?」

真弘の言われて、ドキリと体を強張らす。

「え!あ、ああそう。卵、卵。あはははは」

珠紀は卵を取り出すと、そそくさと料理に戻った。

「で、何を作ってるんだ?」

いつの間にか背後に来ていた真弘が覗き込む。

「ちょっ、いきなり近いです」

珠紀は真弘を押しやった。

「お前、この鴉取真弘様がじきじきに味見をしてやろうっていうのに、何だその態度は!」

「味見に距離は関係ないでしょ!もう、やっぱり出て行ってください」

こうして結局真弘は台所を追い出されたのだった。





数十分後、鴉取家の今には大量の豪華な料理が並んでいた。

「ちゃんと作れてるじゃん。とりあえず見た目だけは」

「見た目だけじゃないです。味だってちゃんとしてます。
そりゃあ、久しぶりだったからちょっと自信ないけど・・・」

そうは言うものの、見た目と匂いからして味にも間違いはなさそうだ。
真弘はテーブルの上を見渡した。
唐揚げ、エビフライ、スープにサラダなどなど。
どれも自分の好きなものばかり。
その中に真弘はあるものを見つけた。

(いなり?)

いなりずしは誰かを連想させる。
そう、同じ守護者の誰かを。

(ま、いいか。考えすぎだろ。それより)

「おい!どーして焼きそばパンがないんだ!」

真弘は怒鳴った。

「だって、焼きそばパンはいつも食べてるじゃないですか」

「焼きそばパンなくして、日本の食卓にあらず!これ常識」

「そんな常識知りません!そんなに言うなら食べなくていいです」

珠紀は頬を膨らませて横を向いた。
それを見てさすがに真弘は焦った。

「そんなに怒るなよ。たまには焼きそばパンのない食事もいいよな。あー、この唐揚げうまいなぁ」

真弘は唐揚げを一つ摘んで口に放りこんだ。
味は美味しい。
美鶴には少し負けるが、本当に美味しい。

「そんな取ってつけたように言ったって」

しかし、まだ珠紀の機嫌は直らない。
真弘は困ったように頭を掻いた。

「ホントにうまいって。お前食べてみたのか?」

「まだ、食べてないけど」

珠紀は横を向いたままぼそぼそと言った。
それを聞いて真弘はニヤリと笑った。

「じゃあさ、俺が食べさしてやるよ」

「は?」

驚いて顔を向けると鼻先に唐揚げが突きつけられる。

「ほら、あ〜んってしろよ。あ〜んって」

「なっ、そんなの恥ずかしいじゃないですか」

「バカ!やってるほうも恥ずかしいんだよ。さっさとしろよ」

「だって・・・」

「ほら」

真弘は珠紀の目の前に唐揚げをチラつかせる。
珠紀は根負けして口を開いた。
口の中にコロンと唐揚げが落ちる。

「おい・・・ひぃ」

珠紀はモゴモゴ口を動かして言った。

「だろ?」

真弘はニッと笑った。

「だろ?って、作ったの私なんですけど」

「細かいことは気にするなって」

真弘は次々に料理に手を付けていく。
とりあえず、焼きそばパンのことは置いとこう。
珠紀は箸を進める真弘をじっと見ていた。

「なんだよ」

真弘は手を止めて珠紀を見返した。

「別に。ただ、やっぱり好きな人に食べてもらうのって嬉しいなって思って。
どうですか?おいしいですか?」

ずずいっと前に出て珠紀が問う。

「え、あ、まぁ・・・うまいけど」

「本当ですか!」

珠紀は嬉しそうに微笑んだ。
ドキリとまた真弘の心臓が高鳴った。

(ダメだ。もう我慢できん!)

真弘は箸を置くと、珠紀に向き直った。

「珠紀・・・」

「どうしたんですか?いきなりそんな真剣に」

珠紀はきょとんと真弘を見つめる。

「キスしたい」

「えぇ!」

驚く間にも真弘の顔はどんどん近づいてくる。

「ちょ、あ、あの・・・」

(どうしよう。そりゃ、私だって嫌じゃないし、むしろ・・・)

珠紀は瞳を閉じた。
すぐそこに真弘の気配を感じる。
珠紀はその時をじっと待った。

ピンポーン

唇まであとわずかという時、絶妙のタイミングで玄関のベルが鳴った。

「先輩、誰か来てますけど」

「いいから、ほっとけよ。それより・・・」

真弘の頭の中はもう珠紀のことでいっぱいだ。
大丈夫。さっき追い出されている間に部屋の掃除だってしたし。
もし、もしもの話だが、そういう展開になったってこっちは準備OKだ!
しかし、真弘の願いは虚しく玄関ベルは鳴り止むことを知らない。

ピンポーン ピンポーン ピンポンピンポンピンポン・・・

こんな状況はこれ以上の雰囲気作りなど不可能だ。

「だー!もー、誰だよ。ったく」

真弘は本日二度目の同じ台詞を吐いた。
そして玄関へと向かう。

「折角いいとこだったのに」

玄関を開けるとそこにいたのは、

「何がいいとこだったんすか?真弘先輩」

「邪魔をする」

「琢磨!裕一!何でお前らがここに」

そこにいたのは同じ守護者の鬼崎琢磨と狐邑裕一だった。

「いい匂いがするな」

「本当っすね。これは裕一先輩の予想があたったんじゃないすか?」

琢磨と裕一は真弘そっちのけで話を進めている。

「何なんだよお前らは、いきなり」

「先輩。珠紀きませんでしたか?」

その質問に真弘は口ごもった。

「き、きてねぇぞ。珠紀なんて」

真弘は嘘をついた。
折角のチャンスをこいつらにつぶされるわけにはいかない。
だが、それをあっさりと裕一に見破られる。

「琢磨。玄関に珠紀の靴がある」

「ホントだ。やっぱきてんじゃないすか。俺たちを退けて何するつもりだったんですか」

真弘は顔を真っ赤にしてどなった。

「うるせぇよ!ってか、勝手に上がるな!」

そんな真弘を尻目に琢磨と裕一は家に上がりこんだ。
行き先はもちろん匂いの元である居間だ。
そして、思ったとおりそこに珠紀はいた。

「よう」

琢磨と裕一が顔を出すと、珠紀は驚いたように声をあげた。

「琢磨!裕一先輩!」

誰か来たのだろうとは分かっていたが、まさかこの二人とは思ってみなかった。

「うん。ちゃんといなりずしもあるな。俺のリクエストの通りだ」

裕一はテーブルの上を見回して満足そうに頷く。

「あれリクエストだったんですか?」

「おい。俺のタイヤキねぇぞ」

琢磨はテーブルの上を見回して不満げに訴えた。

「タイヤキはさすがに自分じゃ作れないでしょ」

テーブルを挟んで話している三人の話を後から入ってきた真弘は状況を飲み込めず止めた。

「ちょっと待て。いったいどーいうことなんだ。ちゃんと説明しろ!」

「そうですよ。二人ともどうしてここに?」

珠紀も訪ねる。
今日ここに来ることは二人には話していないはずだった。

「昨日やたらと真弘の好物を聞いてきただろう」

「それで、作るなら今日だと裕一先輩が言うんで、やってきたら案の定って訳だ」

同じ質問をしたのに、珠紀が聞くと二人はあっさりと答えた。

「そうなのか?」

真弘は珠紀を見た。

「琢磨と裕一に俺の好物を聞いたって?」

道理で自分の好きなものばかり出てくるわけだ。
珠紀は顔を赤くしてうつむいた。

「だって、先輩明日は誰もいないって言ってたし、どうせ作るなら好きなものがいいと思ったし・・・
先輩に喜んで欲しかったから」

小さい声だが、しっかりとその言葉は真弘の耳に届いた。

(なんでコイツはこんな可愛いんだ)

真弘は必死に欲望を押し留めた。
今は琢磨も裕一もいる。

「さて、惚気話はその辺にして、いただきましょうか。裕一先輩」

「そうだな。珠紀のいなりずしを食べるのは初めてだ」

琢磨と裕一は、ちゃっかり箸を持ってテーブルに座っている。

「おい、こら。何勝手に座ってる。これは珠紀が俺様のために作ったんだぞ。
てめぇらに食わせるもんなんか一欠けらもねぇよ」

真弘はバンッとテーブルに着いた。
近くの小鉢がわずかに浮き上がる。

「情報料ですよ。情報料」

琢磨は憤然と反り返った。
それに裕一が付け加える。

「そうだ。俺たちが助言しなければこんな食事にはありつけなかった」

確かにそうなのだが、何か納得いかない。

「まぁまぁ、先輩。どうせ作りすぎちゃったし、食べきれないから一緒に食べましょうよ」

「しかたねぇな」

珠紀になだめられて、ようやく真弘は大人しく席に着いた。
それを見届けて、珠紀は琢磨と裕一に声を掛ける。

「ちょっと待っててくださいね。今スープを温めてくるから」

そう言って珠紀は台所へと姿を消した。
後に残ったのは男三人。

「お前らの本当の目的は飯じゃねぇだろ」

真弘がエビフライを食べならが言った。

「ばれました? 本当の目的は二人の邪魔をすることです」

琢磨もサラダを食べながら、隠すこともせず話す。

「そんなところだろうと思ったぜ」

真弘はずずっと少し冷めたスープをすすった。
いなりずしを見たときの嫌な予感は当たったというわけだ。

「俺としては、先ほどの『いいところだったのに』という話を詳しく聞きたいところだ」

裕一は、箸に持ったいなりずしを眺めながら言った。
真弘はの見込んだスープの具を喉に詰まらした。

「ところで・・・」

パクリと裕一はいなりずしを食べる。

「このいなりずし、なかなかの味だな」

残りのいなりずしを獲物を狙うような鋭い目で見つめる。

「先輩、この際いなりずしはどうでもいいっすよ」

琢磨は溜息をついた。
そしてようやく珠紀が三人分のスープを持って戻ってきた。
どうやら自分も一緒に食事をすることにしたらしい。

「何の話?」

「なんでもない」

三人は声を揃えていった。
真弘はゴホゴホと咳き込みながらだが。
珠紀は首を傾げたが、それ以上何も聞こうとせず自分も真弘の隣に腰を下ろす。

「味はどう?」

珠紀は琢磨と裕一に尋ねた。

「まぁまぁだな。美鶴には負けるけど」

「いなりずしは旨い」

それぞれに感想を述べる。
それを聞いて珠紀は微笑んだ。

「ありがとうございます。裕一先輩、なんならまた作ってあげますよ」

「頼む」

そうこうしている間に皿の中はすっかり空っぽになった。

「あー、食った食った」

真弘は大量に料理を飲み込んだ腹を撫でた。

「珠紀、このくらい料理できるなら、たまには作れよ」

「その時はまた台所貸してくれます?」

「ああ、お前が俺に食わせてくれるならな」

珠紀はにっこりと微笑んだ。

「んじゃ、そん時は俺たちもお邪魔しますかね。慎司たちも連れて」

「そうだな」

琢磨と裕一は目配せした。
それが『次もまた邪魔しに来るぞ』という意味を含めていることを真弘だけが気付いた。

「お前らに食わすもんなんかねぇよ。珠紀、今度来る時はこいつらにばれないようにこい。
お前らもいつまでいるんだ。食ったらさっさと出て行け」

真弘は琢磨と裕一を無理やり立たせると、玄関に追い立てた。

「いってぇ」

「乱暴な男は嫌われるぞ」

「余計なお世話だ。とっとと帰れ!」

バタンとドアを閉めるとガチャリと鍵をかけた。
これでもう邪魔者は入ってこない。
真弘はすっきりした気分で居間に戻ると、すでに珠紀はそこにはいなかった。
食器類は綺麗に片付けられ、珠紀は台所で皿を洗っていた。
真弘も隣でそれを手伝うことにする。
台所にカチャカチャと皿を洗う音だけが響いた。

「なぁ」

真弘が声をかける。

「何ですか?」

珠紀は洗う手を止めずに言った。

「その・・・飯、うまかった」

ボソボソと真弘は言った。
珠紀は思わず手を止めて真弘を見つめる。

「本当?」

「ああ、だからまた作りに来いよ」

「はい。絶対にきます。こんどはちゃんと焼きそば作りますね」

微笑む珠紀に真弘も思わず笑った。
そしてどちらともなく口付けを交わす。
両手が泡で濡れてて、抱きしめられないのが惜しいくらいだ。
真弘は唇を離すと、小さな声で呟いた。

「今度はお前ごと食ってやるからな」

「え?何て言いました?」

「っ!何でもねぇよ」

真弘は顔を赤くして再び皿洗いに取り掛かった。
珠紀も疑問を持ちながらも皿洗いに戻った。
次は何を作ってあげようかと幸せの中考えながら・・・。



<了>



ついに、ついについに!緋色の欠片のssを書いてしまいました。
記念すべき第一作目。やっぱりここは真弘先輩でしょ。
緋色のssを書くにあったって、一人称にすべきかどうか悩みましたが、結局はいつものスタイルにしました。
いかがですか?緋色のssってこんな感じ?
すっかり遙かで慣れてしまったので新しいキャラを使って書くのはとても新鮮でした。
やたらと裕一先輩がいなりずしにこだわってますけど。
書いてて、私の中で彼はこんなキャラだったのかと始めて分かりました。