願い事ひとつ




「ええぇぇっ!」

あまりの事実に望美は思わず大声を上げた。
その隣でヒノエがわずかに眉根を寄せて耳を塞いでいる。

「別にそんな驚くことないだろ。誕生日が今日だったってだけじゃないか」

「何で、何でなの。どうしてよりによって今日なのよ」

望美は顔を青くして言った。

「だって、誕生日はいつかなって聞いただけなのに、どうして今日なの」

「しょうがないだろ。今日なんだからさ」

「そうかもしれないけど、プレゼントもケーキも用意できてないよ」

元よりこの時代にケーキなどないのだが、動揺してここまで頭が回らない。

(当日になったらいろいろ用意して驚かそうと思ってたのに、まさか今日だなんて)

望美は何故もっと早く聞いておかなかったのかと心の中で嘆いた。

「誕生日なんてわざわざ祝うものじゃないだろ。歳はみんな正月にとるし」

「この世界じゃそうかもしれないけど、私たちの世界じゃ大切なことなの」

ヒノエの投げやりな態度に望美は少し声を強くした。
そんな望美を見て、ヒノエは顔を寄せた。

「ねぇ、どうして望美はオレの誕生日をそんなに祝いたいの?」

「そ、それは・・・」

望美は近づいてきたヒノエの顔を少し離した。

「教えてよ。望美」

ヒノエはさらに顔を近づけ耳元で囁く。
耳に直接響く声に望美はゾクリと体を震わした。

「好き・・・だから」

細い声だったがそれは確かにヒノエの耳に届いた。
ヒノエはその答えに満足そうに微笑むと、次に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
その笑みに望美は何となく嫌な予感を思える。

「そうだな。折角だし、何か貰おうかな」

「な・・・にを?」

無意識に体を引く望を逃がさないとばかりにヒノエはその腕を掴んだ。

「それは、もちろん・・・」

その後はボソボソと聞こえない声で呟く。

「え?何、聞こえない」

望美は反射的にヒノエの声を聞こうと体を寄せた。
それを見逃さずヒノエは一気に引き寄せ、望美を自分の腕の中に収めた。
女性らしい華奢な体はすっぽりとその中に納まる。

「ヒノエくん!?」

逃れようと望美は身をよじる。
ヒノエはさらに腕の力を強めた。

「オレが欲しいのはただ一つ。お前が欲しい」

真剣な声に望美は動きを止めた。
互いの視線が至近距離で絡まる。

「他には何もいらない。望美さえ傍にいてくれれば」

本気でそう望んでいるのが声や瞳から伝わってくる。
望美はその視線に酔ったかのように頬を染めた。

「うん、私はあなたのものだよ。誓うよ。これから先ずっとあなたの傍にいます」

望美もヒノエの首に腕を回した。

「オレも誓うよ。この命ある限りお前と共にあろう」

そっと口付ける。
それは永遠を誓う恋人たちの口付け。
今、この瞬間に二人は永久にあることを誓った。

「誕生日おめでとう」

唇を離して望美は言った。
その言葉にヒノエは少し目を丸くして、それから嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。来年もその次の年も、10年後もこうしてオレの誕生日を祝ってくれたら嬉しい」

「当たり前だよ」

望美も笑みを浮かべた。
これから先ずっとあなたと共に・・・。

「さてと、それじゃ早速」

次の瞬間ヒノエは軽々と望美を抱き上げた。

「え?」

気がつけばヒノエは望美を抱えて歩き出している。
状況を理解できない望美はただヒノエにしがみつくしかない。

「何処いくの?」

「何処って、寝室」

当然とばかりにヒノエは答えた。

「何でそうなるの。降ろしてよ!」

望美は顔を真っ赤にして、バタバタと足を動かして抗議する。

「うわっ、暴れるな。望美が欲しいって言っただろ。それにお前のオレの物だって言ったじゃん」

「言ったけど、それってこういう意味なの!」

「どんな意味だと思ったんだ」

ヒノエは理解できないとばかりに溜息をついた。
そうしている間にもどんどんヒノエの寝室が近づいてくる。
今になってヒノエのあの意地悪そうな笑みの意味が望美は分かった。

「言っとくけど、貰ったものは返さない主義だから。オレから離れられると思うなよ」

ニヤリと笑うヒノエに、望美は顔を真っ赤にしてしがみついた。
こうなったら覚悟を決めるしかない。
あなたを好きだと思う気持ちは変わらないから。
望美は心の中でもう一度おめでとうと囁いた。



<了>



ヒノエ誕生日おめでとう!
すっごくベタな感じですが、時間がなくて・・・。
どうでもいいことですが、ヒノエと私は誕生日が凄く近いです。
同級生になったら一年近く離れてるし、かといって逆だったら学年違うし。
もし、同級生だったら小学校の時とか、「お前オレより背が高くてムカツク」とか言われそう。
だってしょうがないよね。女の子の方が成長早いんだもん。
それでもヒノエLOVE!