繋ぐ手、繋がる心




(今日は一体何なんだ)

九郎は周りの光景に違和感を覚えていた。
こちらの世界へやってきて早数週間。
ようやく慣れてきた街並みもここ数日、どうも気になることが多かった。
日に日に派手になっていく街並みを見て、九郎が尋ねると、
現代組みの望美や将臣、譲はクリスマスだからだと教えてくれた。
しかし、今日のこの光景は明らかにおかしい。
どこを見てもそこにいるのは仲睦まじい恋人同士ばかり。
手を繋いだり、腕を組んだり、方を抱いたりと九郎にとっては見てるだけで頬が熱くなってくる。

「望美、こいつらは一体何なんだ」

堪らず九郎は隣にいる望美に尋ねた。
現在、九郎と望美は街に買い物に来ているところである。

「ああ、このカップルのことですか?きっと今日がクリスマスだからでしょうね」

「『くりすます』というのは、飾り付けをしたり、得体の知れない老人が来るだけのものではないのか?」

少々クリスマスに関してズレが生じているようだが、その点に望美は突っ込みは入れなかった。
理由は面白いから。
もちろん、将臣からの入れ知恵である。

「クリスマスは恋人たちにとって、最大のイベントですからね」

「そういうものなのか?だが、オレには理解できん。人前でベタベタなんて恥ずかしくてできるか!」

他人事なのに、真剣に怒り出す九郎。
時代と九郎の性格を考えれば当たり前のことなのだが、望美はちょっと残念に思った。

(九郎さんがそう言うのも、もっともなんだけど)

本音を言ってしまえば自分も九郎と手を繋いだりしてみたかった。
ちょっと周りの恋人たちが羨ましい。

「ねぇ、九郎さん。もし私が、あんな風にしたいって言っても嫌ですか?」

「何言ってるんだ、お前は!」

「ごめんなさい」

何故か謝ってしまった。
重い空気があたりに流れる。

「お前もしたいのか?その、ああいうこと」

九郎の視線の先には人目を憚らず、口付けを交わすカップルがいる。

「別に、そこまでしたいって言うんじゃなくて」

望美は急に恥ずかしく、情けなくなってきて顔を伏せた。
きっと九郎にとって手を繋ぐだけでも、人を前にすると「恥ずかしい」その一言で断ってしまうだろう。
どこまでも純心。
そこが九郎のいいところでもあるのだが、時々不安になるときもある。
大勢の人の前で、この人は自分の恋人なのだと宣言できたらいいのに。
いつも心のどこかでそう思う自分がいた。
それはきっと自分の我侭なのだ。
これは九郎の望むことではない。
わかっている。でも・・・。
望美の目頭に熱いものが込み上げてくる。
涙で滲む視界の中に、スッと手が差し出された。
顔を上げると、顔を真っ赤にして目を逸らしている九郎が目に入った。

「今日だけだからな。『くりすます』は、その、オレたちにとって大切なことなんだろう」

九郎は『恋人』と言う言葉をわざと『オレたち』という言葉に置き換えた。
『恋人』という言葉をさらりと言うにはまだ抵抗があったのだ。
望美は差し出された手と九郎の顔を交互に見つめた。
そして、頬を染めて微笑むと、思い切って九郎の差し出された九郎の腕に抱きついた。
手を繋ぐだけのつもりだった九郎は、すっかり動揺してしまった。

「なっ///。手を繋ぐんじゃなかったのか!」

「私はこっちの方がいいんです」

満足そうに笑みを浮かべる望美に、九郎が抵抗できるはずもない。

(仕方がないか。今日ばかりは)

苦笑して、望美を見つめる。

「オレはこういう性格だから、普段からこのようなことには不慣れだ。
だが、もし手を繋いでいない時も心は繋がっていると思っている。
だから、不安になどなるな」

九郎の言葉に望美は目を見開いた。
心の中を読まれたように、九郎の言葉は的を得ていた。
しかし、同時に不安を吹き飛ばす力があった。
望美は九郎の腕をしっかりと握り締めた。

「はい。私は九郎さんを信じます。大好きです」

その言葉に言う方も言われた方も同じくらい顔を赤くした。
やがて、初々しい恋人たちは街の中へと消えていった。



<了>



九郎はクリスマス自体を勘違いしてると萌っ!
もちろんそんな情報を入れているのは弁慶と将臣。
でも、誰も訂正してあげない。だって面白いから。
そんな感じで、クリスマスは過ごしてほしいな。
で、ちょっと恥ずかしいことでも望美の言うことなら、それすら我慢して聞いてくれそう。
プレゼントより態度で示してほしいな。