美味なる御馳走




知盛の住むマンションのキッチンで望美は料理をしていた。
知盛と現代に帰ってきて数ヶ月。
元武将である知盛に料理などできるわけもなく、こうして望美が作りに来るのが日課となっている。
料理が苦手な望美は始めこそ苦労して作っていたものの、母親に教わったり、
自分で本を見たりして今ではそれなりに作れるようになっていた。
そして、本日クリスマスも知盛の家に上がりこみ料理をしているのだ。
クリスマスということもあり、望美も気合が入る。

トントントン

狭い室内に包丁の音が響く。
いつしか室内には美味しそうな匂いが漂っていた。

「いい、匂いがする」

やってきたのは知盛だ。
先ほどまでリビングで雑誌を読んでゴロゴロしていたはずだが、匂いにたまらず動き出したらしい。

「もう少しで出来上がるから、ちょっと待ってて」

望美は背後で様子をうががっている知盛に目も向けずに進めていく。
それに気を悪くしたのか、知盛は密かに方眉を吊り上げた。

「味見をさせろ」

「あっ、ちょっとまだ途中・・・」

言い終わる前に知盛の手が伸びてくる。
てっきり料理に伸ばされるかと思われた手は、それを通り過ぎ、まっすぐ望美へと伸びる。
スッと伸びた男らしい筋張った手は、望美の首筋をスルリ滑り、知盛はそこに唇を寄せた。

「あっ」

望美が甘い声をあげる。

「まだ、足りない」

そう言って知盛は、顎を引きこちらを向かせて、貪るように唇を重ねた。

「はぁ、とも・・・もり」

互いの間に荒い息が漏れる。
包丁を持っていたはずの望美の手は、いつの間にか知盛の首へと回されていた。
それでも、まだ頭の片隅に料理のことが残っていたのか、少しだけ知盛を押し戻す。

「あの、まだ料理が途中なの。だから」

「だから?」

「続きをしたいんだけど」

望美は上目使いに知盛を見上げた。
しかし、それを鼻を鳴らして却下した。

「くだらんな」

「なっ!くだらないってなによ」

望美は憤慨して知盛を睨みつけた。
知盛はその表情に満足そうに目を細める。

「オレは本当にうまい物が喰いたいんだよ。
オレを、満足させてくれるんだろ?それに・・・」

知盛は望美の頬に手を伸ばした。
かすかに触れるだけで、望美が声を漏らす。

「お前もまだ、満足してないだろ」

否と言わせない知盛の目と、自分の素直な欲望に気付いて、望美は正直にコクリと首をたてに振った。

「貪欲な神子様だ。純白の天使とはほど遠いな」

知盛はニヤリと笑った。

「忘れない、夜にしてやるぜ。
今日は聖なる夜というヤツだから・・・な」

二人は再び口付けを交わし、寝室へと姿を消した。



<了>



なんで、知盛相手になるとこっちの方面にいっちゃうんでしょう。
書いているうちに、あらぬ方向へと知らぬ間に進んでいきます。
怖っ!魔性ですよ、彼は。
きっと知盛にとってクリスマスなんてどうでもいいんです。
望美さえ傍にいれば。
ついでに、今回は知盛相手ということで、ちょっと望美も獣化してます。
彼曰く、「獣のような女」ですから、それに答えてみました。
私からのクリスマスプレゼントですよ。