聖なる灯




ブルル ブルル

真っ暗な部屋の中で、形態のバイブ音が響く。
八葉たちとのクリスマス会の後、なかなか寝付けず寝返りばかりを打っていた望美は、
枕横に置いてあった形態に手を伸ばした。
画面を見ると幼馴染の将臣からだ。

「もしもし?」

こんな夜中に何の用かと疑問を抱きながらもとりあえず出てみる。

<おっ、まだ起きてたな。電気消えてるから寝てるかと思ったぜ>

相変わらずの能天気な声が電話口から聞こえる。

「もう、どうせ寝てても起こすつもりだったんでしょ」

別に怒っているわけではないのだが、わざと拗ねたような声を出した。
将臣もそれが分かっているのか、あっさりと答えを返す。

<まぁな。それより、今から出られないか?>

「今から?」

<そう。今下いるんだ>

望美はベッドから出て、カーテンを開けると確かに窓の下に将臣が立っている。
将臣も気付いて、こちらに手を振った。

「ちょっと待って、着替えるから」

望美はカーテンを締め直すと、パジャマから洋服へと着替えるため電話を切ろうとした。
だが、将臣は慌ててそれを止めた。

<そのままでいい。別に何処か出かけるわけじゃねぇからな>

「そうなの?じゃあ、すぐ降りてくるね」

電話を切ると、椅子にかけてあったカーディガンを羽織って外へ出た。
玄関には既に将臣が待機していた。

「お前、それだけじゃ寒くないか?」

将臣は開口一番そう言った。

「そうかな?」

「これも着とけよ」

そう言って無造作にジャケットを脱ぐと、頭から望美に被せた。

「もうっ、将臣くん!」

文句を言おうと顔を上げたが、既に将臣は歩き出している。
置いていかれては堪らないので、とりあえず文句を言うのは止めにして後を追いけた。

「ここ、将臣くん家の蔵?」

たどり着いたのは有川家の蔵であった。
果たして将臣がわざわざ呼び出して、何がしたいのかさっぱり分からない。

「ま、中に入よ」

将臣が促す。
望美はしぶしぶながらも言われるままに蔵へと足を踏み入れた。
蔵に入ると古臭いカビの匂いが鼻腔を掠める。
外も寒いが、蔵の中は一段と冷え切っていて、
将臣が貸してくれたジャケットがなければ凍えてしまうほどだ。

「将臣くん、電気は?」

入ったのはいいが、明かりがなければ何も見えない。

「慌てるなって。いいか、前を向いて動くなよ」

わけのわからない注意をすると将臣は蔵から出て行った。
そして、何やらゴソゴソと作業をしている音が聞こえる。

「これでよしっと」

作業が終了したのか、ふぅっと息をつく。

「それじゃあ、いくぜ。3、2、1・・・」

パチン

という音と共に、蔵の中が一気に明るくなった。
始めは眩しさに真っ白だった視界も時間が経つにつれ、だんだんと見えてくる。
そこで、望美が目にしたものとは蔵の中一面に飾られたイルミネーションだった。
サンタやトナカイ。色とりどりに輝く電球。
そして、正面には「merry X’mas Nozomi」と記された電球がある。
それを見て望美は言葉を失った。

「蔵の中で見つけたんだ。昔はよくやってただろ」

子供のころは庭の木や手すりに巻きつけて飾り付けをしていた。
でも、ここ数年は忙しさからか、休みを潰して飾り付けする時間もなく、
いつしかそれらは蔵の中へ押し込まれていた。

「わざわざ見つけ出してきたの」

望美はやっとそれだけ言った。

「ちげぇよ。オレだけ学校に行かなくて暇だから、他のヤツらが散策している間に蔵の掃除をしてたんだ。
そしたらたまたま出てきただけ」

望美には分かっていた。
彼がちゃんと探して飾りを見つけたことを。
証拠も何もない。ただの幼馴染としての勘だ。

「ありがとう。最高のクリスマスだよ」

望美はもう一度イルミネーションを見上げた。
目にはじんわりと涙が溜まっている。
それが、光に照らされてキラキラと輝いていた。
将臣はそっと指先でそれを拭う。

「ごめん。何か感動しちゃって」

涙に気付いて慌てて目頭を押さえる望美を将臣は堪らず抱きしめた。

「お前が望むなら、家中だって街中だって飾ってやるよ。だから・・・」

そこで言葉を切って、将臣は抱きしめる腕に少しだけ力を加えた。

「来年もその次の年も、ずっと一緒に眺めていたい」

その言葉に、望美の瞳からはついに一筋の雫が流れ落ちた。
そして微かに頷いて、来年の誓いを立てるのだった。



<了>



将臣はお金を掛けずに望美を喜ばすのがうまいと思います。
ちゃっかりしてるところがあるので、金銭的にもきちんとしてるのかな。
お金は掛けないけど、労力は惜しまない。
そんなところが、いいんだと思います。
あれ?そしたらヒノエはどうなるんだ?
自分のためにお金をバーッと使ってくれるのもいい気もするし・・・。
んー、人それぞれってことで。