木彫りでだぁれ?




とある日、自宅のリビングにて、有川将臣・譲兄弟はある物体を前にして悩んでいた。

「譲、お前これなんだと思う?」

「自分が分からないからって、俺に聞かないでくれよ」

譲はメガネをくいっと人差し指で上げながら、物体を凝視する。
再び考え込む二人のみ耳にチャイムの音が入ってきた。

「おじゃましまーす」


扉の閉まる音と同時に、幼馴染の聞きなれた声がした。
しばらくすると望美がリビングに顔を出した。

「九郎さんいる?」

二人の姿を見つけると、不在者の所在を尋ねた。
迷宮で再び茶吉尼天を封印した後、九郎は望美と共にいるため、こちらの世界に残ったのだった。
現在も有川家の居候として、将臣たちと共に生活している。
そして、望美は恋人に会うためちょくちょく有川家に顔を出しているのだ。

「九郎さんなら、夕飯の買い物に出かけてますよ」

譲が親切に教えてやった。

「なーんだぁ」

望美はがっくりと肩を落とした。

「そんなことより、望美もこっちに来てみろよ」

将臣は望美を手招きした。
望美にとっては「そんなこと」ではないのだが、好奇心の方が勝り将臣たちが囲んでいるリビングの机についた。
そして、机の上にちょこんと乗った物体を手にとった。

「これ、九郎さんが作った木彫りでしょ。・・・・これ何?」

「やっぱ望美でもわかんねーか」

九郎の作った木彫りの像ということはわかっている。
彼は趣味と言って今までに何体も作品を作っているのだ。
問題は、何を模して作ったのかと言うことだった。

「般若・・・のようにも見えますよね」

譲は像の顔を見ていった。

「でも、体は仁王像だよな」

正臣はかの有名な金剛力士像を思い出して言った。

「それにしてはちょっと華奢なんじゃない。でも確かに怖い顔してる」

三人はそれぞれ意見を述べて、またう〜んと唸った。
そこで、望美はあることを思い出した。

(九郎さんて独特のセンス持ってるのよね。
これも見たままのイメージで取っちゃいけないのかも)

なんせ過去に蛇そっくりの竜を作った前例のある人物なのだ。
その他の物もけして心から上手いと呼べるものではない。

(となると、これは一体何なの?)

そこまでは分かったものも、だから何なのかがわからない。
そこにタイミングよく九郎が帰ってきた。

「ただいま帰ったぞ」

そう言って買い物袋をテーブルの上にドサッと置く。

「ありがとうございました。足りないものはありませんか?」

「ない。こちらの世界にも大分慣れたからな。
スーパーの『たいむさーびす』という戦場にも慣れた」

ガサガサと中身の点検を始めた譲るに、九郎は自信たっぷりに答えた。
すっかり逞しくなったものだと、幼馴染三人組は感心した。

「ところで九郎。これ何作ったんだ」

将臣が九郎に問題の木彫りの像について尋ねた。
しかし、像を見ると、九郎は耳まで真っ赤にした。

「あ、いや、そ、それはだな・・・」

明らかに行動がおかしい。
三人はますます訳が分からなかった。

「教えてください。すっごく気になるんです」

力強く望美に問われ、九郎は顔を赤くしたまま、小さな声で呟いた。

「それは望美を作ったんだ。」

ブチッ

将臣と譲の背後から何かが切れる音が聞こえた。
長年の付き合いの二人にはこの音が何の音なのかすぐに分かった。
ソロリソロリと望美と九郎から遠ざかる。

「木切れの余りを見つけたんで、久しぶりに木彫りをしようと思ったのだが、
その時何故かお前の顔が浮かんできたんだ。
ほら、顔の表情とかお前にそっくりだろう」

照れながらもよほど自身があるのか、九郎は像の自慢を始めた。
その横で、望美は拳を硬く握り締め、ブルブルと震えている。

「ん?望美、どうしたんだ?」

「く、九郎さん」

「なんだ、言いたいことがあるならはっきり言え」

「私のことそんな風に見てたんですか!」

どかーんと火山が噴火したように望美は怒り出した。

(キレたな)

(キレましたね)

安全地帯に逃げた将臣と譲は冷静に状況を把握した。
先ほどの、ブチッという音は望美の堪忍袋の緒が切れた音だったのだ。

「何故、怒る。これはむしろ喜ぶところだろう」

突然怒り出した望美に九郎は訳が分からなかった。

「九郎さんのバカ!だいたいいつもいつも・・・・」

「何で、今そんなことを持ち出すんだ。そういうお前だってこの間・・・・」

ぎゃあぎゃあ言い争う二人を見ながら将臣はまた始まったかと無言でその様子を眺めていた。

「痴話喧嘩は他所でやってほしいね」

「全くだ。今の望美の表情この像にそっくりだぜ」

譲も思わず頷きかけたがやめた。
望美がこちらをギロッと睨みつけているのが見えたからだ。

「将臣くん、今聞き捨てならないことが聞こえたんだけど」

「さぁ、気のせいじゃねぇか」

将臣はあらぬ方向に視線をそらした。

「譲くんも頷きかけたでしょ」

「そ、そうでしたか?」

譲は表情を隠すために、メガネを上げるフリをした。
それらを聞いて、九郎は得意げに望美に言い放った。

「どうだ、今回はオレのほうが正しかったようだな。やっぱりこの像は望美だ」

その言葉に望美の沸点は最高潮に達した。

「私は絶対認めないんだからー!」

怒りを撒き散らす望美に男三人は(そっくりだ)と同時に思った。



<了>



過去拍手第1弾。
九郎が望美を作ったらどうなるんだろう。きっと望美とは似ても似つかないものが出来るはずだ!
と思いつき書いたもの。
タイトルが全く浮かばなくて今日まで先送りにしてきましたが、やっぱり何処か気に入りません。
九郎の木彫りのセンスもですが、私のセンスもどうかしたいです。