甘美なるもの




「はぁ〜、疲れた。甘いお菓子が食べたい〜」

自分にあてがわれた部屋に着くや、望美は床に倒れこんだ。

「お行儀が悪いわよ、望美」

「だってぇ」

優しく朔が諭すが望美が動く気配は全くない。

「仕方ないわね、ちょっと待ってて」

そう言って、朔が出て行ってからも望美は動く気がせず、そのまま寝転んでいた。
しばらくすると、後のほうで襖が開く音がした。

(朔、帰ってきたのかな)

朔ならいいかと、まだその体制を崩さない。

「おや、姫君はだいぶお疲れのようだね」

耳に届いた予想外の声に、望美は慌てて身を起こした。
そこには面白そうな笑みを浮かべたヒノエが立っている。

「ヒノエくん!何でここにいるの!?」

だらしない自分を見られたバツの悪さに思わず声も大きくなる。

「随分な言い方だね。折角姫君ご所望の品を持ってきたのにさ」

そう言って持っていた袋を広げる。
入っていたのは唐菓子だった。

「わぁ、食べてもいいの?」

一応聞いてはみるものの、目は釘付けになっている。
食べる気満々だ。

「もちろんだよ。そのために持ってきたんだから」

「やった!」

早速一つ口に運ぶ。

「うん。おいしい」

待ち望んでいた味に、自然と笑顔がこぼれる。

「ありがとう。ヒノエくん」

「ふふっ。お礼は言葉じゃなくて、こっちがいいんだけど」

そして、素早く望美の唇を奪う。
啄ばむような口付けは、やがてより深いものになる。
最後に、望美の唇をペロッと舐めて、ヒノエは望美を解放した。
はぁ、と乱れた息が互いの唇から漏れる。

「・・・甘いね」

それは何を指しているのか。

「オレにはこの唐菓子なんかより、望美のほうがずっと甘い」

「・・・っ///」

望美は顔を赤くして、恥ずかしさを隠すようにヒノエを睨み付けた。
だが、ヒノエがそれに堪えるわけもない。
しかし、部屋の外に何かを感じたらしく、ヒノエは視線を流した。

(そろそろ帰ってくるかな。残念だけど、時間切れだね)

まだ拗ねている望美に持っていた唐菓子を渡すと、ヒノエはスッと立ち上がった。

「それじゃ望美、また後でね。ご馳走様」

ひらひらと手を振るって、ヒノエは部屋を出て行った。
そして、ほとんど入れ替わりのように、菓子を手に持った朔が部屋に入ってくる。

「さっき、とても上機嫌なヒノエ殿に会ったわ。望美、どうしたの?」

「知らない!ヒノエくんなんか知らない!」

部屋に入ると、顔を赤く染めながら、バクバクとヒノエのくれた唐菓子を頬張る望美の姿が目に入った。
その様子を見て、

(またヒノエ殿ね。一度ならず二度までも)

ヒノエに対する朔の評価は下がる一方である。
その横では唐菓子を食べ終わった望美が、今度は朔の持ってきた菓子に手を伸ばしていた。



<了>



過去拍手の第1弾です。
王道といえば王道なシチュエーション。
サイト出来立ての頃に作ったやつなので、文がまだまだって感じです。
もちろんそれは今も変わりませんが。
漫画家さんが過去の読みきりを本にするとき、恥ずかしくて読めないという気持ちが分かる気がします。