僕の望むもの




ここは熊野。
川に現れた怨霊を探すため、望美は一人八葉たちから離れ、将臣そして知盛と共に行動していた。

「ねぇ、知盛」

将臣が水を汲みに行ってくると言って、二人きりになったのを見計らって望美は知盛に話しかけた。

「なんだ?」

「今日、将臣くんの誕生日って知ってた?」

「たんじょうび?」

知盛は眉に皺を寄せて聞き返してきた。
そこで望美は時代が違うことを思い出し、簡単に説明する。

「誕生日っていうのは、その人が生まれた日のことだよ。
ここではお正月にみんな年を取るけど、私たちの所では誕生日に年を取って、お祝いをするんだ」

「ほう。で、神子殿は有川の誕生日に何をするおつもりで?」

「そこなのよ」

そう言って、望美は腕を組んで考え込んだ。

「プレゼント・・・あっ、贈り物ののことね。それを渡したいと思ってるんだ。
でも、今まではずっと一緒だったから何となく欲しいものとか分かったんだけど、
将臣くんとしては三年近くも離れてたわけだから全然分からなくて」

「それで、オレにどうしろと?」

望美は待ってましたとばかりにニッと笑った。

「知盛、将臣くんの欲しいもの知らない?私より一緒にいたんだから分かるでしょ」

「クッ、このオレに他の男の欲しいものなど尋ねるとは、神子殿もなかなか残酷なことをなさる」

「えっ!別にそんなつもりじゃ」

予想外の言葉に望美は戸惑った。

「クッ、いいぜ。今回は特別に知恵を貸してやろう」

「本当!」

ぱっと望美の顔が明るくなる。

「ああ。有川の欲しいものは分からんが、男の欲しがるものなら・・・」

そう言って、知盛は望美の耳に口を寄せると、何事かを耳打ちした。
それを聞いたとたん、望美の顔がボッと赤くなる。

「・・・なっ」

「信じられんか?一度試してみるといい」

「あなたと将臣くんを一緒にしないで!」

「男の考えることなど、そんなもんだ」

キッと知盛を睨みつける。

「いい顔つきだな」

知盛は満足そうに望美の視線を受け止めた。

「おい。そんなとこで睨み合って何やってるんだよ」

水汲みから帰ってきた将臣が声を掛けた。

「将臣くん!」

その場の緊張感が一気に解ける。

「何だ?また知盛が何かしたのか?」

ジロッと知盛を睨みつける。

「心外だな。まぁいい。兄上、オレからの『誕生日プレゼント』だ」

ドンッと望美を押しやる。
倒れかけた望美を将臣は思わず片腕で抱きとめた。

「はぁ?」

事の成り行きについて行けず、将臣は怪訝そうに声を出した。

「と、知盛ぃ」

「後は、自分で何とかするんだな」

不安そうな声を出す望美それだけ言うと、踵を返して知盛は去っていった。

「お前ら何の話をしてたんだ?」

未だに状況を掴めない将臣は望美に尋ねた。

「その、今日、将臣くんの誕生日でしょ」

将臣はこの言葉に目を丸くした。
そういえば、時空を飛ばされて三年間、自分の誕生日の事なんかすっかり忘れていた。
自分の誕生日を思い出す、そんな暇もなかった。
それほどこの三年間は楽なものではなかったのだ。
だが、望美と再開して、前の自分を少し取り戻せた気がする。
こうやって、誕生日を祝ってもらうことも望美がいるからこそのことなのだ。

「それで、プッ、プレゼントなんだけど」

どうも歯切れが悪い。
おまけに顔も赤くなっている。
不自然な望美に将臣は先程の会話を思い出す。
「自分で何とかするんだな」そう言って知盛は去っていった。
この様子からすると、知盛に何か吹き込まれたのだろう。
予想はついたが、将臣は望美の言葉を待った。

「・・・でいい?」

「何?」

「私で・・・いい?」

顔を真っ赤にして言う。
大胆な発言のわりに、明らかに恥ずかしがっているその表情。
将臣は思わず笑い出した。

「こ、こっちは真剣に言ってるんだから!
だって、欲しいもの分からなかったし、知盛は男の欲しがるものなんてそんなもんだって言うし。
私なんかよりずっと大人になって、三年間離れた分、なんか将臣くんとの間に
距離ができてるようなきがして・・・寂しくて」

言っている間に涙が零れる。
恐らく最後のほうが本音だろう。
知盛に吹き込まれたのも確かだが、彼女なりに考えて口にしたのが分かる。

「悪かった。ごめんな」

そう言って、将臣は指で望美の涙を掬い取った。
離れてた分、お互いの間に共有できないモノができたのは仕方がないことだ。
だから、それを埋めようと必死になる。
それは将臣も同じだった。

「でもな、無理はしなくていいんだぞ」

「私、無理なんて」

言い張る望美の頭を将臣はクシャと撫でた。

「お前、オレが何年お前の幼馴染やってると思ってるんだ?
望美の考えてることくらい、三年離れてたくらいじゃ分からなくなるわけねぇよ」

「将臣くん・・・」

望美は将臣を見つめた。
変わったものもあるけど、変わらないものもある。
今まで自分たちが過ごしてきた時間はそういう時間だった。

「でも、折角知盛とお前がくれた誕生日プレゼントだし。
少しくらい味わっとかなきゃ損、いやいや悪いよな」

「えっ?」

将臣はニヤッと笑うと素早く望美に口付けた。
一瞬のキス。
それでもお互いの気持ちを埋めるには十分だった。

「生きてりゃ、時間はあるんだ。俺たちはゆっくりやっていこうぜ」

スッと手を差し出す。
その手に望美も手を重ね、二人手をつないで歩き出した。
重なる影が、お互いの時間をも重なったように伸びていた。



<了>


将臣誕生日ssでした。
将臣の誕生日なのに、前半知盛がかなり出張ってます。
折角将臣なんだから、裏熊野で誕生日を迎えたかったんです!
誕生日おめでとう将臣くん。