お約束・将臣編




「ただいまって、あれ?望美か?」

将臣が帰宅すると、キッチンには何故か望美の姿が。

「お帰り、将臣くん」

「譲や母さんは?」

他人が家にいることなど気にもせず、不在者を尋ねる。
それほど幼馴染の望美は有川家に定着しているのだ。

「譲くんは今日から弓道部の合宿で、おばさんは町内会の話し合いがあるって言ってでしょ?」

「あー、そうだったかも」

「お母さんも一緒に行っちゃったし、お父さんも遅いし。
一人じゃ寂しいからこっちでご飯食べようかなって、おばさんと入れ替わりで上がらせてもらったの」

ちなみに、有川父は海外に出張中である。
つまり、将臣も一人なのだ。

「しっかし、一人が寂しいって小学生かよ。
しかも、作ってるのカレーだし。
お前なにかってーとカレー作るよな」

キッチンに並べてある食材を後から覗き込んで言う。
玉ねぎ、人参、ジャガイモに肉。
ルゥはまだ出ていないが、パターンからしてカレーだろうと将臣は仮説を立てた。
案の定、望美はぷぅと頬を膨らまして将臣を押しやる。

「もぅ、いいでしょ!私の料理の腕知ってるくせに!!
そんなこと言うなら、将臣くんにはあげないよ」

「ははっ、ワリィワリィ。そう怒るなって」

笑いながら誤られても誠意が感じられない。
そんな将臣を横目に望美は料理の続きを始めた。

トントントン

キッチンに野菜を刻む音が響く。
真剣に野菜を刻む望美をしばらく見ていた将臣はおもむろに口を開いた。

「何かさ」

「ん?」

「こうしてると、新婚さんみたいだよな。オレ達」

ザン!

今まで軽快なリズムを刻んでいた包丁が、一際大きな音を立てる。
まな板の上には見事にまっ二つにされた人参が転がっている。

「な、何言ってるの!?」

顔を真っ赤に染めて望美が振り返る。

「だってそうだろ?食事を作る新妻と、帰宅したばかりの夫。
これって絶対新婚夫婦のシチュエーションだろ」

「んー、確かに。じゃあ、あの台詞も言っておかないとね」

望美がニヤッと笑う。

「アレってアレか?」

将臣も思わずニヤッとする。
こんなところでは本当に気が合う幼馴染なのだ。

「お風呂にする?ご飯にする?それともア・タ・シ?
なーんちゃって・・・ん」

冗談で済ますつもりが、将臣にキスで口をふさがれ、最後の言葉を封じられてしまった。

「オレなら、もちろんお前だな」

してやったりとニッと笑う。
ここにきて、ようやく望美はハメられたのだと気づいた。

「も――――っ///。将臣くんと結婚しても、絶対言ってあげないんだから!」

包丁片手に睨みつける。顔は耳まで真っ赤だ。

「わ、わかったって。冗談だよ、じょーだん。
だから包丁を振り回して怒るな」

さすがに身の危険を感じて一歩後ずさる。

「将臣くんは、黙ってあっちでテレビでも見てて!」

プイッと元の位置に向き直ると、無言で料理を再開した。

「はいはいっと」

将臣も今度は大人しくキッチンから出て行った。


トントントン

再び軽快なリズムが響き始める。
料理を進める望美の後姿を遠くから眺めながら、将臣は望美には聞こえないようそっと呟いた。

「メインディッシュはまた今度な」

しばらくすると、食欲をそそるカレーの匂いが漂い始めた。



<了>



半ば強制的に将臣⇒ご飯です。

望美と将臣は絶対気が合うはずだと勝手に解釈しています。
アレだろうがコレだろうが、絶対伝わるはず!
基本的に一緒にいるので、下ネタでも全然言い合えるような仲なんじゃないかと思います。
なので、望美の料理の腕は重々承知。
まずくても、文句を言いながら全部食べてくれそうな気がします。
今回は、将臣が予想したとおり作ってたのはやっぱりカレーでした(笑)
カレーは望美が美味しく作れる数少ない料理の一つです。

「お約束」には将臣編のほかに、ヒノエ編・九郎編・知盛編があります。
彼らはどんな選択をするのでしょうか。