お約束・知盛編




「おじゃましまーす。知盛、いる?」

望美がやってきたのは知盛が住んでいるマンション。
学校の帰りはいつもここに寄ることにしている。
鍵が掛かってないのはいつものこと、だが今日は状況が違った。

「あれ?いないの?」

声を掛けても返事が無い。
いつのことといえばそうなのだが、今日は気配まで無かった。

「もう!元武将故の自信だか知らないけど、居る時はともかく出掛ける時ぐらいは鍵掛けなさいよね」

ブツブツと文句を言いながら部屋に上がる。
勝手知ったる他人の家。
望美は冷蔵庫から飲み物を取り出し、ソファーに座り、先ほど買ってきた雑誌を開いた。
熱気のこもった部屋を冷ますためクーラーも入れる。
しばらくすると、玄関のドアが開く音が聞こえた。

「お帰り、知盛」

パタパタと玄関まで知盛を出迎える。

「珍しいね。どこ行ってたの?」

「余りにも暇だったのでな、お前を迎えに行っていた」

「うそー!」

それを聞いて望美は愕然とした。
知盛が迎えに?こんなこと滅多に無い。

「コンビニに寄ったからだ。折角迎えに来てくれたのに」

今日はいつも買っている雑誌の発売日。
それを買うために今日に限ってコンビニに寄ってしまった。
そのために行き違いになってしまったのだ。
如何に惜しいことをしたのか、今になって悔やまれる。

「ふん。神子殿はオレを差し置いて、一人を満喫していたようだ」

知盛はリビングの様子を見て言った。
クーラーの利いている部屋で、冷たい飲み物を飲みながら雑誌を読んでいました。
という状況があからさまに出ている。
望美に言い訳の余地はなかった。

(まずい。知盛、機嫌が悪い)

知盛の機嫌が悪いとろくな事が無い。
大抵そのツケは自分に回ってくるのだ。

「ねぇ、知盛。これっていつもの逆のパターンだと思わない?」

望美は無理やり話題を変えた。
何とか機嫌を直さないと、と必死なのだ。

「今みたいに帰ってきた知盛を私が迎えるってなかなかないでしょ。これって新婚さんみたいだよね」

にっこりと笑みをうかべる。
拗ねたように横を向いていた知盛の目だけが望美に向けられる。

「こっちの世界では、新婚さんの定番みたいな台詞があるんだけど・・・」

「・・・・・」

何も言わないが、とりあえずこちらは向いた。
つかみはOK。望美は心の中でガッツポーズをした。

(知盛ならこれで機嫌が直るはず!)

「ご飯にする?お風呂にする?それともア・タ・シ?」

最後の部分は自分を指差して言う。
と、ここで今まで黙り込んでいた知盛が口を開いた。

「くっ、それがお前流の機嫌の取り方か?」

(うっ、バレバレ)

望美は肩をすくめた。

「面白い」

「はぁ?」

意味がわからず、思わず聞き返す。

「乗ってやろう・・・と、言っているのだ」

そう言って望美を肩に担ぎ上げる。

「ちょっと、知盛!?」

背中で望美が喚く。
一体どこへつれて行こうというのか。

「風呂場で、お前を味わう」

「へ?」

「お前が言ったんだ。飯にするか、風呂にするか、それとも・・・」

お前にするか・・・とな?
最後の部分だけは低い声でささやく。
望美はこの声にとても弱い。
それを知っていてわざとそうするのだ。

「ううぅ〜、ずるい。それって、さりげなく全部じゃない」

呻きながらもシッカリと知盛のシャツを掴む望美。
その感覚を背中に感じている知盛の表情には怪しげな笑みが浮かんでいた。
元より、知盛の機嫌などそんなに悪くなかった。
多少拗ねていたのは本当だか、本人は無自覚である。
ただ、望美の反応が見たかった、それだけのことだ。
思わぬ方向へ話が転がって一番満足しているのは彼である。
知盛は稀に見る上機嫌でバスルームの扉を開けた。



<了>




知盛編。
答えは全部でした(笑)
かなり無理やりですけど。
初めて知盛書いたのに、何でこんな感じになってるんだろう。
お風呂でって!?
さすが、歩く18禁!あなどれません。

「お約束」は知盛編の他に、将臣編・九郎編・ヒノエ編もあります。
彼らは何を選択するのか。
よろしければこちらの方もどうぞ。