お約束・ヒノエ編




熊野に嫁いでで早一ヶ月。
ようやく今の生活にも慣れ、望美はぼんやりと外を眺めていた。
異世界からやってきた望美を熊野の人々は暖かく迎えてくれ、ヒノエに愛されて、
何一つ不安なことはない幸せな日々。

「まさか、自分がこんなに早く結婚するとは思わなかったけど、本当に幸せな新婚生活だな」

陽だまりの中、う〜んと伸びをしながら思う。
と、望美の動きが止まった。

「新婚生活?あれ?何か忘れているような」

腕組みして考えていると、ある一つの考えが浮かんできた。

「あ!アレだ。やっぱり新婚さんのお約束といえば、これだよね。
早速ヒノエくんが帰ってきたら試してみよう」

早く帰ってこないかなーと、ウキウキとヒノエが帰ってくるのを待った。



「ただいま。オレの姫君」

「お帰りなさい。ヒノエくん」

帰ってきたヒノエをいつものように出迎える。
ただ一つ違うのは・・・。

「他の連中はどうしたんだい?」

そう、普段なら家に仕えている女房たちも望美と共にヒノエを出迎えるはずである。
しかし、今日は彼女たちの姿がない。

「あのね、私が頼んで今日は遠慮してもらったの」

「ふーん。で、俺の可愛い姫君は人を遠ざけて何がしたいんだい?」

頭の回転の速いヒノエはこの状況を見て、すぐに望美が何か企んでいることを悟った。

ふふっと微笑みながら望美が答える。

「さすがだね、ヒノエくん。実は一度やってみたいこと、ていうか言ってみたいことがあって。
私の世界での新婚さんのお約束みたいなことなんだけど・・・」

コホンと軽く咳払いをして、少し上目遣いにヒノエを見る。

「お帰りなさい、ヒノエくん。
お風呂にする?ご飯にする?それともア・タ・シ?」

いざ口にすると急に恥ずかなり、顔が赤くなる。
一度は行ってみたいと思っていた台詞だが、こんなに恥ずかしいとは思ってなかったのだ。
ヒノエはというと、きょとんとした表情を見せたが、
それはほんの一瞬のことで、すぐに笑みを浮かべると望みを抱き上げた。

「ちょ、ヒノエくん?」

ヒノエは望美を抱き上げたまま、廊下をずんずん歩いていく。

「あんな可愛い問いをされるなんてね。答えはもちろんおまえだよ」

「・・・っ///。私はただ言ってみたかっただけで、別に答えて欲しかったわけじゃ」

「だめだよ、望美。言い直しは聞かないよ」

「そ、そんな」

目的地である寝室に着くと、ヒノエは望美の額にそっとキスを落とした。

「お前から求めてきたんだからね。今夜は覚悟しときなよ」

ヒノエは悪戯っぽく微笑む。

そんなヒノエを見て頬を赤く染めながら、
望美はヒノエ相手にあんな台詞を言ってしまったことを激しく後悔した。



<了>



記念すべき1作目。
ぼーとしてたら思いついたネタです。
これがなかったらこのサイトは存在しなかったという、ある意味貴重な作品です。
ほんとに定番の台詞ですが、ヒノエだったら迷わず望美だろうと。

姉妹編として、将臣編・九郎編・知盛編もあります。
現在製作中です。
果たして彼らは何を選択するのか!