贈り物は誰のため? *はじめに* 「贈り物は誰のため?」は行動選択制小説です。 文章の最後に選択肢がでますので、自分の行動を考えて進めてください。 ブラッド×アリスを基本としていますが、選択肢によっては短くも長くも、 またブラッド以外の相手とエンドを迎えられる可能性があります。 エンドはいくつかあります。あなたのお気に入りのルートを探してください。 それではアリス。 物語のページを開こう・・・。 物語を読む 物語を読まない 窓から暖かな日が差し込んでいる。 私は眩しさで目を覚ました。 とりあえず今は昼らしい。夜に寝たと思うので、私にとっては正常な時間帯だ。 もぞもぞとベッドの中で体を動かし、日を拒むようにシーツを引き上げる。 まだ寝たりない。体がだるい。 あの男のせいだ。 無意識に隣を探る。 しかし隣にいたはずの人物の姿はなかった。 今は昼のはずだが、珍しく仕事に出かけたのだろうか。 疑問が浮かんだせいで頭が冴え、体を起こした。 室内を見渡してもやっぱり姿はない。 「・・・珍しいこともあるのね」 私は脱ぎっぱなしの服を探した。 が、いくら探しても見つからない。 「なんで?」 常にだるそうにしている彼は先に起きても服を片付けてくれない。 脱ぎっぱなし、散らかしっぱなしだ。 本人曰く「面倒だから」らしい。 予想通りの答えすぎて反論もできなかった。 どうせ起きたら着るのだから片付ける必要はないと思っている。 洗わなくてもいつの間にか綺麗になっている世界なので、そのままにしていてもシワにはならない。 だからと言って放置しておくのもどうかと思うが。 とにかく、今現在私の手元に服はなかった。 ここは彼の部屋なので、替わりの服も当然ない・・・と思っていた。 「こんなものさっきまでここにあったかしら?」 部屋を一周して戻ってくると(もちろんシーツを巻きつけてだ)ベッドの脇に女性用の洋服があった。 広げてみるとどこか見覚えのある服。 「これ、前にブラッドからもらった服だわ」 プレゼントにと渡されたものだ。 だが、特別な関係でもない私たちが意味もなくプレゼントをあげたり、 受け取ったりするのは間違っている気がしてずっとクローゼットの中にしまっていたはずだった。 それでも受け取ってしまったのは、ブラッドが受け取らないと男の沽券にかかわると脅してきたためだ。 言葉ではそう言っていたが、表情は受け取るという選択肢しか受け入れないと圧力を掛けていた。 だからこれを受け取ったのは不可抗力だ。 プレゼントの渡しあいなんて・・・、 (・・・恋人同士みたいだ) 私とブラッドはそんな甘い関係ではない。 だから今までこの服に袖を通すことはなかった。 それがここにあるってことは、 「意地でも着せてやるって宣戦布告ね」 (・・・あの野郎) 私はブラッドの顔を思い出しながら服を握り締めた。 諦めて服を着る。 意地でも着ない。 とはいえ、ずっとこのままと言うわけにも行かない。 仕方なく、仕方なーく服を着る。 「・・・・」 悔しいが趣味はいい。 いつもは年の割りにやたらふりふりした服を着ているが、それは姉の趣味であって私はもっとシンプルなものが好みだ。 ブラッドの用意した服は私の好みにぴったり合っていた。 ついでに言えば、サイズもぴったり。 「何で知ってるのよ」 教えてもいないのにサイズを知られているなんて、すごく嫌! 再び怒りがわいてくる。 (今度会ったら、一発ぶん殴ってやる) ブラッドを探しにいく。 そのまま部屋に止まる。 これがここに用意してあるってことは、ブラッドはこの服を着てほしいってこと。 つまり、奴の要望に応えるということだ。 (そんなの絶対に嫌!) マフィアのボスだから何でも望みが叶うなど思わないほうがいい。 一つくらい思い通りに行かないことがあるということくらい学ぶべきだ。 とはいえ、ずっとこのままと言うわけにもいかない。 (・・・・着るべき?) さすがにこの格好では寒い。 どうしようか迷っていると、時間帯が夜へと変わった。 「もう夜!?」 昼になっていくらも過ぎていない。 驚いているとバタンと音がしてブラッドが入ってきた。 「・・・げっ」 帰ってくる前に部屋へ戻ろうと思っていたのに予想外に早いお帰りだ。 (最悪) ブラッドはドアを開けたままの格好で固まっていた。 「・・・・」 「・・・・。何?」 視線が私自身に注がれている。 居心地が悪い。 「ふむ・・・」 ブラッドは後ろ手でドアを閉めると、今度はにやにや笑いながら近づいてきた。 何か企んでるときの顔。嫌な顔だ。 「君は、ずいぶん大胆だな」 ギシッとベッドに手を付いて体重を掛ける。 「それほどまでに私を切望していたとは。 急な仕事が入って黙って出て行ってしまったが、今はその時間すら惜しいと感じられる。すまなかったな」 「は?」 昼に起きていて頭がいってしまったのではないだろうか。 そうしている間にも、ブラッドは上着を脱ぎ脱ぎ近づいてくる。 「何を謝ってるの?」 ブラッドが謝ってくる。 (・・・・キモ!) 思わずそう思ってしまった。 顔にも出たはずなのに、ブラッドは気づかない。 それほどまでに熱が上がっているらしい。 「女性の君にここまでさせてしまうとは申し訳なく思うが、男としてこれほど嬉しいことはない。アリス」 「だから、何言って・・・」 ドサッと押し倒された。 「その格好」 ブラッドが舐めるように私を見つめる。 そこでようやく気がついた。 私は服を着ていない! 先ほどと同じ、シーツを巻いたままの姿だ。 「こ、これは違うの! そうだ、あんた私の服返しなさいよ。近づかないで!」 力の限り押しやったがびくともしない。 「服? ああ、これのことか」 ブラッドは広げてあった服を手に取った。 が、すぐにポイッと投げ捨てる。 「着てほしかったんじゃないの?」 それにしては扱いが雑だ。 「着てほしかったよ。だが、君はそれ以上に私を喜ばす姿で待っていてくれた。 それだけであの服の意味は成したということだ。必要ない」 「あんたのためじゃない!」 「照れなくてもいい。君の気持ちを汲んでやれなくて悪かったな」 本気で怒鳴ったが、ブラッドには照れ隠しに聞こえたようだ。 優しくキスをされる。 「君を寂しくさせた分、今度は私を君に刻みつけよう」 ブラッドがにっと笑った。 ひょっとしたらこれも奴の計算だったのではないだろうかと、ふと思った。 (最低・・・) それは罠に落ちた自分になのか。 罠を仕掛けたブラッドになのか。 どちらにせよこの状況に対してはぴったりと来る言葉だった。 (こんなことなら、大人しく着ていればよかった) それがその夜私の考えられた最後の正常な答えだった。 <Fin> 『アリスの意地END』でした。 着ようが着まいが結局ブラッドを喜ばす結果になってしまいましたね。 ひょっとしたらこれもブラッドの計算かもしれません。 あとがき 文句の一つでも言ってやらなければ気がすまない。 私はブラッドを探しに行くことにした。 すれ違うメイドさんたちに居場所を聞いて回るがさっぱり突き止めることはできなかった。 そのかわりすれ違うたびに「お綺麗です〜」とか「似合ってますよ〜」とか、 相変わらずだるだる〜とした口調で褒められた。 お世辞だと分かっていても褒められるのは嬉しい。 お世辞だと思う時点で、私はそうとう根暗だ。 彼女たちはどう思っているだろう。 ひょっとしたら私とブラッドの関係に気づいたかもしれない。 少しブラッドの部屋から出たことを後悔した。 だが、すでに出てしまったものは仕方ない。 こうなったら最後までやるべきだ。 しかし、ここまで居所がつかめないと屋敷にいないのではないかと思えてくる。 (どうしようかな) 屋敷内を探す。 屋敷外を探す。 まずは屋敷内にいるという確証がほしい。 私は正門に向かった。 そこには相変わらず、休みがほしい、給料を上げてほしいと労働条件に不満を漏らしながら門番をしている双子がいる。 「あれ」 「あれ?」 双子は私に気がつくと驚いた跡に、頬をほんのり染めた。 「お姉さん、可愛いね」 「うん。いつも可愛いけど、今日はもっと可愛い」 二人はにこにこと抱きついてくる。 「そ、そう。ありがとう」 一応礼を言ってみるが、内心はひやひやしていた。 (斧を持ったまま抱きつくな!) 目の前には双子の背より高い斧がちらついている。 よく磨かれているのだろう。その刃はキラキラと言うよりギラギラしている。 (危ない) 双子と話すのは命がけだ。 「お姉さんっていうより、お姉さまって感じ」 「うんうん。ボスのプレゼントっていうのが気に入らないけど、とっても似合ってるよ」 「わかるの?」 何も言っていないのに双子は誰にもらったものか正確に当てて見せた。 (部屋から出たの、間違いだったかしら) これでは私たちが特別な関係だと言うことを吹聴しているに等しい。 そのことに私はやっと気がついた。 「ねぇ、ブラッドがどこにいるか知らない? 私、彼を探しているの」 今更考えても仕方がないので、本来の目的を尋ねる。 「ボス? ここは通らなかったよね。兄弟」 「そうだね。ボスは外には出ていないはずだよ」 サボりがちな二人が言うことなので半分以上が信用ならない。 「それより、お姉さん。僕らと遊ばない?」 「え?」 「見つかるか見つからない人を探すより、僕らと遊ぼうよ。退屈させないよ」 双子は楽しそうに誘ってきた。 (仕事しろよ、仕事) 双子たちと遊ぶ。 屋敷内を探す。 諦めて部屋に戻る。 そのまましばらく本を読んで過ごす。 ブラッドの部屋は本がたくさんあり、時間をつぶすのにもってこいだ。 時間帯は昼から夜へと変わっていた。 ソファーに座って読書に勤しんでいると、ブラッドが帰ってきた。 「おや、君が私の用意した服を着るなんて、珍しいこともあるものだ」 だるだると興味なさげな口調はいつも通りだ。 (白々しい) 私はパタンと本を閉じると、ブラッドに詰め寄った。 「好きで着てるんじゃないわよ。私の服を返して」 「さて、何のことだが。君の服ならそこにある」 ブラッドがステッキで指す先には私のいつのも服があった。 「ウソ・・・」 なかった。絶対なかった。 手品としか思えない。 「つまり君がその服を着たのは君の意思だということだ」 「・・・ちがっ」 違う? 本当にそうだっただろうか。服はやっぱりそこにあって、私はそれを着なかった。 「・・・・」 本当に? でも、私は今ブラッドの用意した服を着ている。それだけは紛れもない事実。 「よく似合っているよ」 ブラッドは私を引き寄せ、抱きしめた。 「気に入らないわ」 「何が?」 この男はたぶん分かって聞いている。 気に入らない。 私に似合う服を要したブラッドもそれを着てしまった私も。 「その服は君のためにあつらえた物だ。気に入らないわけがない」 この服は私の好みにもサイズにもぴったりで私のために作られたのだとわかっていた。 「そうね」 だから気に入らない。 ブラッドは私の何もかもを見透かしている気がして。 (・・・・負けたわ) きっと彼に出会った時点で負けていたのだ。 元彼とそっくりで、でもまったく違うこの男。 「ありがとう」 私はブラッドにキスをする。 ブラッドは少し驚いたように目を瞬かせ、それから笑った。 「どういたしまして。だが、礼はしてもらうよ」 「? ・・・・っ!」 ブラッドはスカートの中に手を入れてきた。 「何する気よ」 私はブラッドを睨みつける。 「何ってナニかな。君が聞きたいなら、詳しく説明してもいい」 にやにやとブラッドは笑った。 「いい。いらない」 (この××××!) 「君、女性がそんなことを考えるのは品が良くないよ」 心の中で考えたことが口に出ていたらしい。 ブラッドは呆れ顔だ。だが、そんなことはどうでもいい。 「あら、聞こえたの。この×××××」 「・・・・はぁ」 ブラッドはため息をついた。 どうやらやる気が失せてしまったらしい。 「まぁ、いい。今日は君のその姿を堪能することにしよう。 この部屋から出ていないようだし。その姿は誰にも見られていない。私だけのものだ」 ブラッドは少し体を離して、私を見つめた。 「君に私の送った服を着せて、周りをけん制するのもいいと思ったが、ここまでくるとそれも惜しい。 私だけのものにしたくなる」 「私は誰のものにもならないわ」 「そうだろうね。だが、今は私だけのお嬢さんだ」 「・・・・」 ブラッドはまた私を抱きしめた。 「この姿を堪能するんじゃなかったの?」 「するよ。その服を着た君自身をたっぷりとね」 ブラッドは私の髪を撫でて、少し顔を上向かせる。 私たちは深く口付けを交わし、見詰め合う。 夜はまだ始まったばかり、今度は長い夜になりそうだった。 <Fin> 『ブラッドの思う壺END』でした。 このエンドを選んだ人は、正統派ですね。素直な方です。 あとがき ブラッドが昼間に外に出るとは考えにくい。 屋敷内にいると断定して探すことにした。 長い廊下を歩いていると、前から見知った人物が現れる。 「あれ? アリス」 ぴょこっとウサギ耳を動かして嬉しそうに小走りでやってきたのはエリオットだ。 「珍しい格好してんな。ブラッドからもらったのか?」 どうして分かるのだろう。 私が応えないでいると、私の周りを回りながらジロジロと見回した。 「似合ってんな。でも・・・」 「でも?」 エリオットはそこで言葉を濁した。 彼にしては珍しい。 私が先を促すと、エリオットは頬を染めて言った。 「なんか、姐さんみたいだな」 「姐さん・・・」 どうしてそこで頬を染める。 悔しいがそれなりに気に入っていたので、ちょっとショックだ。 「悪い意味じゃないぜ。可愛い」 「・・・ありがとう」 姐さんと聞いた後ではその言葉も半減だ。 「あー、ブラッド探してんのか?」 私の変化に気づいたのだろう。エリオットは慌てて話題を変えた。 が、きっとその理由には気づいていない。 「ええ。知ってる?」 「さっきまで一緒だったんだけどなー。急ぎの用事が入っちまって呼び出したんだが、すっげー機嫌悪かったぜ」 仕事が入ったせいでいなかったのか。 彼がいなくなった理由は分かった。 「仕事はもう終わったの?」 「ああ。キレてるときのブラッドはすごいぜ〜。怒りを全部仕事にぶつけるからな。 おかげでかなり早く終わったぜ」 ボスが怒っているというのにエリオットは嬉しそうだ。 そこまで怒る理由を考えて私は少し彼に会いたくなった。 「あのさ、もし暇なら俺と食事に行かないか? 一仕事して腹が減っちまってよ。 うまいにんじんステーキ出してくれる店見つけたんだ。あ、でもブラッド探してるんだったっけ」 しょぼんと耳が垂れる。 (・・・こいつ。わかっててやってる?) 可愛すぎなんだよ、この野郎。 食事に行く。 部屋に戻る。 まだ諦めない。 これだけ探しても見つからないのだ。 さすがに諦めて外へ行くことにした。 せっかく違った格好をしているのだ。いつもと違う気分転換になるかもしれない。 ふらふらと歩いていると目の前から見知った人物が歩いてくる。 「・・・げっ」 慌てて身を隠そうとしたが遅かった。 「・・・! アリス!」 ストーカーことペーター=ホワイトは私の姿を見るなり両手を広げて掛けてきた。 (最悪) こんなことなら大人しく屋敷にいればよかった。 気分よく歩いていたのが台無しだ。 「どうしたんです? ああ、僕に会いに来てくれたんですか」 「違うわよ! あんたこそどうしてここいるの?」 城の宰相であるペーターが外を出歩くのは珍しい。 いつも会うのは城ばかりだ。 「今日は仕事でここまで来たんです。税の徴収って城下から行うでしょう。 でも城下の生活水準にあったものにしなければ、税の徴収はスムーズに進まない。 多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけないんですよ」 そう話すペーターは確かに一国の城の宰相だった。 が、行動がそれに伴っていない。 今も私に抱きつこうと必死だ。だが、私も必死にそれを拒んでいる。 「そう、だったら仕事に戻りなさい。私も帽子屋屋敷に戻るわ」 「帽子屋・・・」 ピタリとペーターの動きが止まった。 そしてジロジロと私の服装を見る。 「その服、まさかあのいかれ帽子屋にもらったんじゃないでしょうね」 ギクッ (するどい) 屋敷に住む者ならまだ分かるが、まさかペーターにもばれるとは思っていなかった。 「違うわよ。これは私が自分で買ったの」 私はとっさに嘘をついた。 しかしペーターはまだ疑っているらしい。 「ブラッド=デュプレ。帽子屋ファミリーのボス」 ブツブツとブラッドの肩書きを呟く。 相手を吟味するかのように。 その言葉には殺気がこもっていた。 「あなたに服を送った男。・・・殺したいですね」 完全にばれている。 めがねの向こうで赤い瞳がすっと細くなった。 「服がほしいなら店ごと買ってあげます。宝石がほしいなら、誰も持っていないような豪華のものを送ってあげます。 だから、僕のところへ来てください。あなたの望むものならなんでも揃えてみせます」 ペーターは真剣な表情で言った。 だから私も真剣に答える。 「私が望むものはあなたには用意することができないわ」 ペーターは少し耳を垂らした。 「あの男ならそれができると?」 「そうよ」 私の望むものはあの人にしか用意できない。 私が望むのはあの人自身だから。 「そうですか。僕が望むのはあなたがこの世界に残ってくれること、そうでしたね」 「ええ」 「その望みが叶うためにあなたの望みを叶える者が必要だと言うのなら、僕はそれに従いましょう。 とりあえず、今日のところは見逃しておきます。その服、とても似合っていますよ」 ペーターはにっこりと笑ってそう言ってくれた。 心からの言葉だと思う。 だから私も素直に答えた。 「ありがとう。私もそう思うわ」 私たちはそこで別れた。 駆け足で帽子屋屋敷へと戻る。 私のいる場所は、いるべき場所はここだ。他のどこでもない。 ブラッドの部屋に戻って、ようやく息をついた。 ふと彼のくれた服が目に入る。 誰が見ても彼が送った物だとわかる服。 私が彼の物だと主張する服。 私をこの世界に、彼に繋ぎ止める服。 「ブラッド・・・」 私は服ごと自分自身を抱きしめた。 会いたい。 ただ、無性に会いたかった。 会って、「君は私の物だよ」と言ってほしかった。 体を重ねるだけの関係でも。そこに愛がなくても。 ただの愛玩でもいい。 彼だけが私の望み・・・。 「どうしたんだ?」 気づけばブラッドが隣にいて、いつの間にか夜になっていた。 「・・・・っ。誰か君をいじめたのか?」 私はどんな表情をしていたのだろう。 ブラッドはひどく驚いて、そして眉を寄せた。 いつものだるい感じではない。言葉に怒気がにじみ出ている。 「違うわ」 私は彼の胸に体を寄せた。 「私は、あなたの何かしら?」 ぽつりと呟く。 ブラッドは私のいつもと違う言動に少し戸惑いを見せた。 (答えてくれない) チクンと胸が痛んだ。 私は余所者。本来この世界にはいない存在。 私はちっぽけな存在だけど、それでも確かにここにある。 それでもブラッドにとっては重荷になるだろう。 「君は・・・」 ブラッドは私の背中に腕を回し、抱き寄せた。 「君は、私の愛しい人だよ」 そう囁かれた言葉に涙しそうになる。 『物』じゃない。『愛しい人』。 「ブラッド・・・っ」 たくさんたくさんキスをする。 お互い息が乱れるくらい深く。 「服、着てくれたんだな」 ブラッドはその服を乱しながら言った。 私のほうはすでに何も考えられなくて、答えることができない。 見れば分かることなので、彼も肯定など期待していない。 「君が望むなら、服でも宝石でもいくらでも送ってやろう。だが、見返りはもらうぞ」 ペーターと同じことを言う。 「私は、そんな物ほしくないわ」 「そうだろうね。君がほしいのはもっと別のものだ。無欲で、だがとても貪欲だ」 「・・・狂ってるの?」 「至極正常だよ。いや、狂ってるのかもしれない。私も無欲で、貪欲だからなぁ」 ふざけた物言いに、冷静さを取り戻す。 こんないかれた男に会いたいなどと思った少し前の自分が間抜けに思えた。 「私たちが望んでいるのは同じものだ。そうだろう、アリス」 「・・・・っ」 もし、私の自惚れでないのなら、私たちが望んでいるのはお互いだ。 私が彼を望んでいるように、彼も私を望んでいる。 「狂ってるわね。お互いに」 「一人だけ狂っていたら狂気的に映るが、互いに狂っているなら仕方ない」 ブラッドはだるだると言った。 「そうね。仕方ないわ」 恋は盲目とは誰の言った言葉だったか。 お互い狂った私たちは相手のおかしさに気がつかない。 そして今夜も体を重ね。深い恋の闇へと落ちていくのだ。 ―――後日。 「アリス。これはなんだ」 そう言ってバサッと広げられたものは大量の服だった。 「どうしたのこれ?」 私が疑問符を浮かべていると、ブラッドは小さな紙を手渡した。 『愛しいアリス。 君にもっと似合う服を用意しました。 帽子屋にあきたらいつでも僕のところへ来てください』 「ペーターから?」 要約すればこんな感じだ。 他にも愛してるだの、大好きだの、ブラッドの悪口などたくさんのことが書かれていたが要点を押さえれば三行で十分だった。 「どういうことなんだ。君は私に隠れてペーター=ホワイトと会っていたのか?」 「えっと・・・」 私は言葉を濁す。 ブラッドが怒っているのは明らかだった。 「「あの××××ウサギめ! 今度会ったらぶっ殺してやる」」 その理由は違えど、二人が殺意を覚えたのは同時だった。 <Fin> 『ペーターの横槍END』でした。 最終的にはブラアリですが、あんまりすんなりエンド迎えられても面白くないので。 本当はペタアリにしたかったんですけど、断念しました。 その代わり横槍をブスブス入れてもらいましたけど(笑) あとがき 「綺麗なお姉さんと遊ぶっていいよね」 「うん。すごくいい気分」 ウキウキと話す双子に対して、私はまったくウキウキしていなかった。 擬音語をあえて使うならドキドキだ。 でもときめきというわけではない。 危険・・・そう、危険を感じていた。 バンバン 銃声とともに、耳元をヒュンと銃弾が掠めていく。 「お前ら、いい加減にしろよ」 後方で銃を撃っているのはボリスだ。 あの後、私たちは屋敷の外へと出た。いつものようにずるずる〜と引きずられて。 もちろん仕事中である二人はサボりである。 彼らにしてみれば、私の相手をしているって事で仕事中らしいが、遊園地に来ている時点ですでに仕事ではない。 「遊ぶんじゃなかったの?」 尋ねると二人はそろって首をかしげた。 「遊んでるよ。猫と追いかけっこ」 「あ、でも、やっぱり違うかも。目的は見せびらかすことだもんね」 「そうだね、兄弟。せっかく綺麗なお姉さんと一緒なんだ。自慢しなきゃ損だよ」 そして、その相手に選ばれたのがボリスだった。 「その子から離れろ! お前らじゃなくて俺が遊んでやる」 バンと銃声が鼓膜を震わせる。 一応私には当たらないようにしてくれているが、ボリスは本気で撃っていた。 しかし双子はひょいひょいとそれを見事によける。 「バーカ、バーカ。誰がお前にやるもんか」 「そうだよ。ボリスにお姉さんの相手は務まらないよ」 二人はベーと舌を出す。 (お願いだから、これ以上挑発しないで) 私の願いも虚しく、ボリスはもう一丁銃を取り出す。 「少なくとも、お前らよりかはマシに相手をしてやるぜ。もちろん、こんな追いかけっこじゃなくて、イイコトだけどな」 ペロリと舌を出す。 (どっちも危険だわ) 私にとってはどちらと遊ぶのも同じだった。 ただの危険ではない。命の危機だ! バンバン 銃声が絶え間なく響く。 今の私には逃げるという選択肢しかない。 とにかく全力で屋敷に帰る。 それだけが私の願いだった。 <Fin> 『仲良し?END』でした。 まさかボリスが出てくるとは私も思いませんでした。 双子は確信犯です。 それに付き合わされるアリスは大変です。 あとがき 結局私はエリオットと街に出た。 彼曰くにんじんステーキのおいしい店だ。 だが、私は少し、いやかなり後悔していた。 「どうだ? うまいだろ」 にこにことエリオットはにんじんケーキを口に運ぶ。 耳がピンと立っていて彼の感情を如実に表していた。 「・・・ええ、そうね」 対して私はうんざりとしていた。 この店に入ってからと言うもの、出てくるものはすべてにんじん! にんじんサラダから始まり、にんじんジュース、にんじんポタージュ、にんじんステーキ、にんじんソテー。 デザートはにんじんケーキ。 挙句の果てには紅茶までにんじんだ! 目の前に並ぶのはすべてオレンジ。きっと胃の中までオレンジに染まっていることだろう。 別に不味かったわけではない。 ただ・・・。 (飽きた!) ここまで徹底されると流石に飽きた。 はっきり言って見るのも嫌だ。 というわけで、今目の前に出されているにんじんケーキに私は手をつけることができずにいた。 「アリス、食べないのか?」 ぼんやりと外を見ていた私にエリオットが声を掛ける。 視線を向けると、寂しそうに耳を垂れている姿が目に入った。 「うっ・・・」 正直私はエリオットのこの顔に弱い。 「私・・・」 ここで、「私にんじん嫌なの。見るのも嫌!」なんてはっきり言えればいいのだろうが、 エリオットを前にしてそんなこと言えるわけがない。 彼は純粋で、そして素直すぎた。 「私、あなたの嬉しそうな顔が好き。だから、これも食べていいわよ」 自分でも吐き気のする思うセリフだ。 しかし、素直な彼は表情より先に耳が動いた。 わずかに持ち上がる。 「いや、だめだ。それはアリスのだ。だから俺はいらない」 エリオットは差し出した皿を、私に押し返した。 「遠慮しなくていいのよ。私、もうお腹いっぱいなの。 ケーキも残すより、あなたが食べてくれた方がいいに決まってるわ」 ピクッとまた耳が上がる。 「アリス・・・・、いいやつだな。ブラッドの次に好きだぜ」 彼にとっては最高の賛辞なのだろう。 エリオットは感無量という感じで私を見た。 「そう。ありがとう」 私はにんじんケーキをエリオットの前におく。 ついでににんじん茶も。 エリオットは飽きもせず、パクパクと口に運ぶ。 今やすっかり耳は直立していた。 (可愛いやつめ) 私はエリオットの顔を見つめた。 (さっさと私の前からにんじんを消しやがれ!) 「どうした?」 半分食べたところで、エリオットが皿から顔を上げる。 「何でもないわ」 私はにっこりと微笑んだ。 (危ない、危ない。思わず本音が出てしまうところだったわ) ブラッドはすごい。 こんな純粋な彼を傷つけずににんじんを断れる。 初めてマフィアのボスを尊敬した瞬間だった。 <Fin> 『にんじんにウンザリEND』でした。 エリオットの可愛さに負けてしまいましたね。 あのウサギ耳はずるいです。 あとがき ここまできたら諦めるわけにはいかない。 半分意地になって私はブラッドを探していた。 「アリス!」 廊下ですれ違った使用人に所在を尋ねていると、遠くの方でブラッドの声がした。 走るまでには程遠いが、彼なりに急いで向かってきているのが分かる。 「何をしている」 ブラッドは使用人から隠すように私を抱えた。 使用人に鋭い視線を向けて、睨みつける。 私を含め、使用人もブラッドのあまりの形相に驚き、何と言っていいのか分からなかった。 「あの・・・・」 「失せろ」 使用人が何か言いかけたが、ブラッドは一言で制した。 持っていたステッキに力が入る。 使用人は慌ててその場から去っていった。 「どうしたの?」 ブラッドは私の腕をつかみ、引きずるように歩いていく。 つかまれた腕が痛い。 スピードは徐々に速くなって、もはや歩くとはいえなかった。 ブラッドは質問に答えてくれない。 ただ、表情を険しくして突き進む。 文句を言ってやるという目的すら頭の中からなくなっていた。 身近な部屋へと押し込むように入れられる。 私の部屋に良く似た客室だ。 カチャリと鍵を掛ける音がしたかと思うと、また腕をつかまれて部屋の中を進んだ。 「ひゃっ」 乱暴にベッドに放り込まれる。 起き上がるより早くブラッドが私の上に圧し掛かった。 「何を・・・」 「どうして部屋から外へ出た!」 強くはない。 でも低い声はただ怒鳴られるより、威圧感があった。 「私がここに来る間に皆に何と言われたと思う? 『アリス様、お綺麗ですね』『似合っていましたよ』。 挙句の果てには双子やエリオットも君のその姿を見たと言う」 私は彼を探すため屋敷中を歩き回った。 その間使用人やメイドたち、エリオットや双子にも彼の所在を聞きまわったのだ。 しかし、それで私が責められる理由が分からない。 「私はあなたを探していたの。怒らせるようなことなんて一つもしていない」 「したよ。君は私を裏切った」 裏切る? そんなことした覚えはない。 「その服、それは私が贈ったものだったな」 ブラッドは組み敷いたまま私の姿を眺めた。 「そうよ。私の服、隠したでしょう。私の服を返してよ」 「君は、男が女性に服を送る理由を知っているか?」 ブラッドは私の意見などさらっと無視して、耳元に唇を寄せた。 「脱がせるためだよ。男は女性に来てほしい服ではなく、脱がせたい服を贈る」 しゃべるたびに吐息がかかり、鼓膜を震わせ、私の体も震わせた。 「なのに、君は私ではなく別の者のところへと行った。 君に会ったという使用人たちの話を聞いて私がどう思ったか君に分かるか? ・・・・殺したいと思ったよ」 彼は私の首筋に噛み付いた。 肉食獣が餌となる動物に噛み付くようなしぐさ。 彼の思ったことは本気だろう。 先ほどの使用人に対しての態度でも分かる。 「やはり服など贈るんじゃなかった。他の男に見せるためにやったんじゃない。君のこんな姿を見るのは私だけでいい」 ブラッドは少しずつ服を脱がし、そして露わになった肌に口付けていく。 でもキスはしてくれない。 それが歯がゆくて、何故か寂しさと虚しさを私に覚えさせた。 「・・・キス、してよ」 私は少し荒い吐息を吐きながら促す。 「何故? 君は私じゃない。他の男がいいんだろう? しかし、今は私と体を重ねている。君が思う男がこれを知ったらどう思うんだろうね。君を、殺すかな」 にやりとブラッドは笑った。 冷たい、視線はそのままで。 「私も君を殺したいよ。それほどまでに君を思う私も、私を拒む君も、君の想う男も・・・」 「拒んでいないわ」 私は否定した。 「想っている人なんていない」 あなた以外には。 いつの間にか、私はこの男を好きになっていた。 恋愛なんてこりごりだと思っていたのに、どうしようもなくこのいかれた男を好きになってしまった。 「なら、何故他のところへ行った」 ブラッドは顔を上げて、私を睨みつけた。 「他の人のところへは行ってないわ」 ブラッドを探していたらたまたまいろいろな人に会っただけだ。 だが、今のブラッドには信じてもらえそうにない。 「逃げ出したんじゃないと言いたいのか?」 ブラッドはそう思っていたらしい。 私はため息を付いた。 「違うわ。私はあなたに・・・」 文句を言いにいきたかったのだ。 (違う) 「私はあなたに、この姿を見せたかったのよ」 言葉にして初めて自覚した。 そうだ、私は見せたかったのだ。 ブラッドの用意した服は私にぴったりで、私の趣味にもあっていた。 とても気に入って、彼に見せたかった。 そして、私が彼のものだと周囲に見せびらかしたかったのだ。 「・・・・・」 ブラッドは目を瞬いて私を見下ろした。 「本当よ。ねぇ、似合っているかしら」 私は恥ずかしそうに微笑んだ。 ほとんど脱がされて乱れているが、私はそう尋ねた。 「あ、ああ。・・・似合っている」 彼にしては珍しくおどおどと答えた。 「キスして」 私はもう一度促した。 今度はブラッドも応えてくれた。 優しくついばむような軽い口付け。 「似合っている。綺麗だ」 ブラッドは深く口付けてきた。 私もそれに応える。 「やはり私の見立ては間違っていなかったな。皆も褒めていた」 「さっきまで殺すとか言っていた人のセリフとは思えないわね」 「今でも殺したいと思っているよ。理由はともあれ、奴らは私より先に君を見たんだ。だが、今は気分がいい。 でもアリス、今度私が贈る服を着るときは私の前だけにしてくれ。私に無駄な殺生をしてほしくなければな」 甘いセリフに聞こえるが、ほとんど脅しだった。 「どうせすぐ脱がすんでしょ。それなら着る意味ないわ」 「君は私の話を聞いていなかったのか? 男は脱がしたい服を贈るんだよ」 (だから嫌なのよ) 私は心の中で毒づいた。 しかし、それは言葉として発する前に、ブラッドの口に飲み込まれる。 「愛しいアリス。私を嫉妬で狂わせるのは君だけだ」 熱くて考えられなくなる意識の中で、ブラッドがそう囁いた。 <Fin> 『ブラッドの嫉妬END』でした。 たぶんここまで来るには一番長い道のりになるんじゃかなと。 お疲れ様でした。 このエンドに到達したあなたは強い信念と、我慢強さと、諦めの悪さを持った方です。 そんなあなたにブラッドはきっと満足してくれるはずです。 あとがき どうして今まで気がつかなかったんだろう。 ここが夢の世界だと言うことを忘れていた。 服がないなら取りに行けばいいのだ。 私が向かったのはブラッドの部屋ではなく、私用に宛がわれた客室だった。 本来服とは衣装ダンスにしまうもの。私の服だって例外はない・・・はずだ。 「つまり、ここよ」 私はクローゼットの扉を開いた。 大きく口を開いたそこには、ブラッドにもらった服の中に埋もれるようにして私のいつもの服が収まっていた。 「思っていたとおりね」 服が一人で歩いてきた、というのは流石にないだろうが、事実ここに服はある。 メイドか誰かが持ってきたのかもしれない。 私はいそいそと着替える。 ブラッドからもらった服を脱ぐとき、彼の顔が頭をよぎった。 しかし、それを振り払うように勢いよく脱ぎ捨てる。 エプロンをつけて、鏡に映してみる。 そこにいるのはいつもの私。 なのに、その表情は硬い。 私をブラッドに繋ぎ止める煩わしい服から解放されたはずなのに、何故か心は晴れなかった。 数時間帯後、ブラッドと廊下ですれ違う。 「・・・・」 彼は何か言いたそうに私を見つめていた。 「何?」 私の質問にブラッドは答えなかった。 彼はどこか落胆したような様子で私の横を通り過ぎる。 すれ違いざま、ブラッドが呟いた。 「そんなにも私を拒むのか・・・」 顔は見えなかったが、その声色は暗く、苦悩が現れていた。 ザクリと言葉の刃が私を突き刺す。 私は何か間違ったことをしただろうか。 ブラッドの足音が遠ざかる。 私とブラッドの心の距離が遠ざかった気がした。 <Fin> 『二人の距離END』でした。 まぁ、いわばBADEND的なものです。 良かれと思ってしたことが、最悪の結果になります。 この場合、機転が利きすぎて自分の服を発見しちゃったことでしょうか。 プレゼントをしてくれた人の気持ちも汲んであげないといけないってことですね。 あとがき *さいごに* お疲れ様でした。 最後に全体を通してのあとがきです。 エンドは全部で7つありました。 『アリスの意地END』 『ブラッドの思う壺END』 『ペーターの横槍END』 『仲良し?END』 『にんじんにウンザリEND』 『ブラッドの嫉妬END』 『二人の距離END』 です。 全部到達することができましたか? 意外なあの人も登場!な感じにしたかったのですが、どうだったでしょう。 あなたのお気に入りのエンドが見つかれば嬉しいです。 今までにない傾向の小説だったので、分かりにくい点、やりにくい点が多々あったかもしれません。 ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 よろしければ感想などあれば言ってください。 なんとなくどのエンドが人気が気になるので。 まだ、すべてのエンドを見ていない方へ。 さぁ、アリス。 新しい物語へのページを開こう。 はじめに戻る |